ホームインスペクションは、既存住宅の瑕疵を判断するプロが建物の異常の有無を調査・報告する業務です。買主に対する検査の説明は住宅売買時の義務とされていますが、詳細がわからない方は多いでしょう。
この記事では、ホームインスペクションについて主に以下の3点を解説しています。
・ホームインスペクションの説明内容
・ホームインスペクションの説明の義務化による影響
・ホームインスペクションの説明によるメリット・デメリット
ホームインスペクションの理解を深め、住宅売買に役立ててください。
ホームインスペクションの説明の義務化とは?宅建業法の改正

2018年4月に宅地建物取引業法、いわゆる宅建業法が改正されました。改正により、既存住宅の売買時にはホームインスペクションの説明が義務化されています。ここでは、以下の2点について解説します。
・ホームインスペクションの説明義務化の背景
・ホームインスペクションの具体的な検査内容
順番にみていきましょう。
ホームインスペクションの説明義務化の背景
ホームインスペクション説明の義務化は、不動産売買において消費者に不利なバランスを是正するために実施されました。日本の中古住宅売買市場のニーズは、欧米に比べて活発とはいえません。実際、日本の中古住宅購入予定者の83.2%が、契約成立後に住宅の欠陥が見つかるのではないかと考えているデータがあります。
予算の問題や信頼できる不動産会社の探し方以上に、住宅の欠陥の有無を不安視する方が多いのが現状です。中古住宅への不安を打ち消すために、ホームインスペクションの説明は義務化されました。しかし、ホームインスペクションはまだ不足しています。制度の具体的な認知率として、以下のデータがあります。
<ホームインスペクションの認知率>
知っている | 聞いたことがあるような気がする | 知らない | |
売主 | 21.0% | 30.6% | 48.4% |
買主 | 36.8% | 23.2% | 63.2% |
参考:一般社団法人全国住宅技術品質協会「インスペクション(建物状況調査)に関する意識調査」
不動産事業者の認知率は95.3%と高い数値ですが、制度をきちんと把握している事業者は59%にとどまっています。
ホームインスペクションの具体的な検査内容
ホームインスペクションは、既存住宅状況調査方法基準に基づいて主に以下の項目を検査します。
・基礎・外壁などの「構造耐力上主要な部分」:バルコニー・外壁・柱・梁・土台・床・壁
・天井他の「雨水の浸入を防止する部分」:小屋裏・屋根・軒裏・内壁・天井
・給排水管路(要オプション)
およそ2~3時間かけて異常がないかチェックします。ただし、給排水管路の検査は別途費用が必要です。
ホームインスペクションの説明で義務化された内容

ホームインスペクションの説明では、3つの内容の告知が義務化されています。
・ホームインスペクション自体やあっせんに関する説明義務(媒介契約時)
・ホームインスペクションの結果説明の義務(重要事項説明時)
・売主と買主への書類での建物の状況説明の義務(売買契約締結時)
売主や不動産業者の説明内容に、誤りがないかを確認できるようにしておきましょう。
ホームインスペクション自体やあっせんに関する説明義務(媒介契約時)
住宅の媒介契約時、宅建業者は以下の2点を説明する義務があります。
・ホームインスペクション制度自体の説明
・ホームインスペクション業者のあっせんの説明
宅建業者が制度や検査事業者を熟知していれば、買主がホームインスペクションの実施を求めた際に、検査事業者のあっせんの段取りをスムーズに進められます。
ホームインスペクションの結果説明の義務(重要事項説明時)
宅建業者が売買契約前にホームインスペクションを実施、またはすでに実施していた場合は、業者は重要事項の説明とあわせて買主に結果を知らせる義務があります。
ホームインスペクションの結果を買主に伝えておけば、欠陥住宅ではないかという買主の不安を解消できます。住宅の瑕疵のデータがあれば、買主は「既存住宅瑕疵担保保険」への加入も検討しやすくなるでしょう。
売主と買主への書類での建物の状況説明の義務(売買契約締結時)
売買契約の締結時には、建物の現状を売主・買主の双方に書類で説明する義務が宅建業者にはあります。口頭説明だけでは正確な記録の確認として不十分なため、トラブルのもとになりがちです。書類として記録しておけば説明した証明にもなり、売買契約のトラブル防止につながるでしょう。
ホームインスペクションの説明の義務化による影響

ホームインスペクションの説明が義務化されたことで、住宅業界では検査制度の周知が広がりました。また、中古住宅の売買だけでなく、新築住宅購入時においても検査の需要が加速しています。しかし、住宅購入後に制度を初めて見聞きし、ホームインスペクションをおこなう買主も存在します。
「ホームインスペクションが必要なのは既存住宅だけ」と解釈している宅建業者も見受けられるため、瑕疵の検査をされないまま新築住宅が売買されることも。新築住宅でも瑕疵が発見される可能性はあるため、不動産売買の損失を避けるためにもホームインスペクションは重要な制度です。
契約不適合責任とは?民法改正にともなう変更点
2020年4月に民法が改正され「瑕疵担保責任」という名称が「契約不適合責任」に変更されています。住宅の異常を瑕疵と認めるかは業者によって変わる場合があったため、瑕疵の補償がされにくいケースがありました。改正された民法は、買主側が不利にならない内容となっています。
「瑕疵」という見かけることが少ない言葉は削除され、住宅の異常が契約内容に合っているかどうかが、住宅売買における判断基準になりました。引き渡された物件が契約と不一致の場合は、売主側が責任を負うルールとなっています。
瑕疵担保責任から契約不適合責任へ変わったことによって重くなる売主の責任
住宅売買の契約が不適合と見なされた場合、買主は以下の権利を行使できます。
・売買契約の解除
・追完請求(住宅の修復など)
・代金減額請求
・損害賠償請求
損害賠償請求以外は、売主に問題がなくとも請求可能です。住宅の瑕疵が生活に影響しなければ代金減額が通らないケースもありましたが、民法の改正によって減額請求のしやすさは向上しています。以前は住宅の瑕疵が発見されても、買主側が金銭面で不利になるケースが見受けられました。改正された民法により、売主と買主の権利のバランスは改善されています。
民法改正にともなう契約不適合責任に対応するポイント
民法改正によって「瑕疵」などの難しい言葉は削除され、不動産売買に慣れない方でも契約書類が理解しやすくなりました。しかし、契約内容の確認はより重要性を増しています。売買契約時に、買主が不利になるオプションを付加される場合もあります。
契約書のテンプレートはネット上で確認可能です。住宅売買のやり取りをする前に契約書の見本をチェックしておけば、売主が提示する書類に不備がないかを発見しやすいです。契約書に買主側が不利になる項目がないかを確認し、民法・宅建業法・ホームインスペクションの関わりを把握しておけば、住宅売買をスムーズに進められます。
ホームインスペクションと瑕疵担保保険の相乗効果
ホームインスペクションは、瑕疵担保保険と組み合わせることで相乗効果を発揮します。瑕疵担保保険は、中古住宅売買の完結後に瑕疵が発見された場合、補修費用を保険でまかなえる制度です。インスペクションで現場検査に合格し、新耐震基準に適合した住宅に限り保険に加入できます。
民法の改正は売主のリスクを増大したかのように思えますが、誠実さを備えた売主が商売をしやすいともいえます。以下の2つの行動によって、売主は契約不適合の責任リスクに対応可能です。
・売買契約前のインスペクションで、買主が瑕疵保険に加入できる状態にしておく
・買主のインスペクション実施希望を受け入れる
瑕疵保険の加入を容易にしておけば、売主と買主の信頼関係も深まるでしょう。
ホームインスペクションと瑕疵保険の検査の違い

ホームインスペクションと瑕疵保険の検査には、以下の明確な違いがあります。
・瑕疵保険の検査項目は保険の対象部位のみ
・ホームインスペクションの検査項目は網羅的
瑕疵保険に加入する場合でも、ホームインスペクションの実施はおすすめです。それぞれの差異を押さえておきましょう。
瑕疵保険の検査項目は保険の対象部位のみ
既存住宅の売買における瑕疵保険の検査は、以下の項目に絞られます。
○建物の外周、内部の目視等による確認をおこなう。
○構造耐力に関しては、基礎のひび割れの有無、居室の柱・床の著しい傾斜の有無、基礎・土台の劣化状況
の確認等をおこなう。
○防水に関しては、シーリング、防水層の劣化状況や、雨漏りの跡、見える範囲での屋根の破損の有無の確認等をおこなう。
引用:国土交通省「現場検査のあり方等に関する検討ワーキンググループ報告書 参考資料」
以上の検査をクリアした住宅の購入者は、瑕疵保険に加入できます。なお、保険に加入するためには、住宅瑕疵担保責任保険法人に登録されている検査事業者に依頼しなければなりません。検査時に保険の適用外と判断されるケースもありますが、補修を済ませれば保険への加入は可能です。
参考:国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」
参考:国土交通省「現場検査のあり方等に関する検討ワーキンググループ報告書 参考資料」
ホームインスペクションの検査項目は網羅的
ホームインスペクションは瑕疵保険の検査と違い、検査項目の網羅性も強みの一つです。建物の傾き・構造体の腐食などを見極め、より詳しい調査が必要かどうかも判断してくれます。
なお、ホームインスペクションは民間に委ねられているため、検査内容は業者によって変わります。瑕疵を正確に判断してもらうためにも、実績が豊富な業者に依頼しましょう。
参考:国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」
参考:国土交通省「ホームインスペクション(住宅診断)消費者のニーズはどこにあるか」
瑕疵保険を利用する場合もホームインスペクションがおすすめ
ホームインスペクションは、瑕疵保険に加入する場合でもおすすめです。瑕疵保険の検査では、住宅に瑕疵が発見された場合でも結果が報告されません。保険に加入できたとしても、住宅の内部に問題がないとは言い切れない不安があります。
ホームインスペクションを実施すれば、住宅の詳しい瑕疵の有無を判断できます。オプションを加えれば、より詳細な検査も可能です。老後を考えて長期的な視野を持ち、ホームインスペクションで住宅の安全性を高めましょう。
ホームインスペクションの説明をおこなうことによるメリットとデメリット
ホームインスペクションの説明には、売主・買主・不動産仲介業者それぞれにメリットとデメリットがあります。
・売主側のメリットとデメリット:契約不適合責任(瑕疵担保責任)のリスク回避・高額補償費の負担の可能性
・買主側のメリットとデメリット:物件引き渡し後のトラブル防止・インスペクションの費用負担の可能性
・不動産仲介業者のメリットとデメリット:物件引き渡し後のクレーム防止・取引中止の可能性
一つずつ確認していきましょう。
売主側のメリットとデメリット
売主がホームインスペクションを説明しておけば、契約不適合責任(瑕疵担保責任)のリスク回避が可能です。検査の実施自体は、買主の判断に委ねられています。検査未実施で住宅購入後に瑕疵が発覚した場合でも、説明の義務が果たされていれば、補修費用を負担する可能性を抑えやすいです。
一方で、事前のホームインスペクション実施で瑕疵を発見し、瑕疵保険の加入に補修が必要となれば費用がかかるでしょう。詳細な検査や補修に時間を取られるケースもあります。
買主側のメリットとデメリット
買主のメリットとしては、引き渡し後のトラブル防止があげられます。ホームインスペクションの説明を売主から聞いた後でも、検査を済ませれば瑕疵保険への加入は可能です。検査を完了した住宅に瑕疵が見つかったとしても、瑕疵保険を適用して買主は補修費用を負担せずに済みます。
デメリットとしては、ホームインスペクションの費用負担があげられます。買主からホームインスペクションを依頼する場合、費用負担の割合は買主と売主で2:1の割合です。売主の義務は検査制度の説明までのため、検査が義務というわけではありません。買主側がホームインスペクションを依頼する場合は、検査費用を払う必要があります。
とはいえ、ホームインスペクション実施の有無は、売主の信頼性を保証する目安にもなるでしょう。検査実施済みの物件を扱う業者は、誠実な売買ができる可能性が高いです。
参考:国土交通省「中古住宅・リフォームトータルプラン検討会-既存住宅市場の活性化についてー」
不動産仲介業者のメリットとデメリット
不動産仲介業者には、売主と買主からのクレームを防止できるメリットがあります。ホームインスペクションの内容が買主まで周知されれば、住宅の瑕疵を検査するかの判断は買主の責任です。検査が実施されずに瑕疵が発見されたとしても、不動産仲介業者が責任を負う必要はありません。
しかし、住宅を検査した結果が買主にとって不満が大きい場合、売買が取り止めになるケースがあります。事前にホームインスペクションを済ませれば、買主との契約をスムーズに進められるでしょう。
ホームインスペクションの意義と重要性を再認識して住宅売買をスムーズにおこなおう
ホームインスペクションは、住宅購入予算の圧迫や時間がかかるといったデメリットがあります。しかし、住宅を検査しないまま購入後に瑕疵が発覚した際は、ホームインスペクションを実施した場合よりも負担が大きくなりかねません。
民法の改正によって売主のホームインスペクションの説明が義務化され、買主側の契約確認も重要になっています。契約書類の不備を見落とせば、住宅購入後にトラブルが発生したとしても、買主が責任を負う可能性は高いです。ホームインスペクションだけでなく、制度に関わる法律もあわせてチェックし、住宅売買をスムーズに進めましょう。