外壁打診調査は、対象となる建築物の剥落事故を未然に防ぐためにおこなう調査で、建物の所有者または管理者に対して10年に1度調査することを、国が義務づけています。
この記事では、
・外壁打診調査が10年に1度必要な根拠
・外壁打診調査に関する知っておくべきルール
・赤外線法のメリットとデメリット
以上の3点について解説します。
外壁打診調査に関して疑問がある方や、より理解を深めたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
10年に1度の外壁打診調査とは?
10年に1度の外壁打診調査とは、特定建築物で、竣工または外壁改修後10年が経つ物件に対して実施しなければならない調査のことです。
外壁の剥落事故などから周辺の人々を守るために、外壁の全面を打診して調査するもので、国土交通省が2008年に施行した定期報告制度の改正により義務づけられました。
ここでは、次の3点を詳しく解説します。
・外壁打診調査が10年に1度義務づけられた背景
・外壁打診調査の実施時期
・外壁打診調査に必要な資格
順にみていきましょう。
外壁打診調査が10年に1度義務づけられた背景
1989年11月、北九州市で発生した高層住宅での外壁剥落事故により、通行していた2名の方が亡くなられました。
また、その後も2005年6月に、東京都中央区でオフィスビルの斜め壁の落下事故などが発生しています。
このような事故を背景に、事故の防止と安全確保のために、2008年国土交通省の告示において、特定建築物定期調査の対象となる建物は、10年に1度外壁の全面調査をおこなうことが義務づけられました。
外壁打診調査の実施時期
「12条点検」の一環として、3年ごとに手の届く範囲での打診、10年に1度の全面打診調査が必要です。
調査の実施時期 | 調査の範囲 | 調査内容 |
3年に1度 | 手の届く範囲 | ・双眼鏡などを使った目視でのチェック・手の届く範囲での部分打診 |
10年に1度 | 外壁の全面 | ・赤外線調査による外壁全面の調査・足場やゴンドラを使った全面打診調査 |
「10年に1度」の部分を分かりやすく説明すると、次のとおりです。
・竣工後10年を超える建物
・外壁改修後10年を超える建物
・外壁全面打診調査後10年を超えるもの
ただし、3年に1度の部分打診や目視によるチェックで異常が認められた場合には、速やかに全面打診をおこなわなければなりません。
外壁打診調査に必要な資格
外壁打診調査は、調査自体をおこなうための資格が法律で厳密に規定されているわけではありません。
しかし、関連する専門的な知識や経験・資格が求められることが多く、建築基準法第12条の定める定期報告のための調査の資格要件は3つのみです。
・一級建築士
・二級建築士
・特定建築物調査員
より高い診断性や正確な報告が求められるため、建築物定期検査などを請け負っている専門の会社に依頼することをおすすめします。
外壁打診調査の対象となる建物・仕上げ材および箇所
外壁打診調査の対象は、以下の3つです。
・外壁打診調査が必要な対象の建築物
・外壁打診調査の対象となる仕上げ材
・外壁打診調査が必要な箇所
順に説明します。
外壁打診調査が必要な対象の建築物
対象となる建物は、特定建築物として指定されている建物です。
特定建築物は、主に不特定多数の人が利用する規模の大きい建築物であり、利用者の安全を守るために指定されており、劇場や映画館・観覧場・公会堂・集会場・ホテル・百貨店・病院児童福祉施設遊技場・飲食店・マンションなどなど多種にわたります。
これらの建物の中でも、さらに階数や面積などについての条件もあります。
また、特定建築物は、特に重要とされている建物については政令で一律に指定されていますが、自治体や地方行政によっても基準が変わってくるため、建物の存在する自治体か外壁調査会社に確認しましょう。
外壁打診調査の対象となる仕上げ材
対象となる仕上げ材は次のとおりです。
・タイル
・石貼り
・モルタル
石貼りのうち、乾式工法によるものは対象となりません。
また、乾式工法以外で工法が不明な仕上げ材も調査の対象になります。
外壁打診調査が必要な箇所
10年に1度必要な外壁全面打診調査は、「剥落により歩行者が危険にさらされる可能性のある部分」が対象です。
「剥落による災害防止のためのタイル外壁、モルタル塗り外壁診断指針」によれば、壁面の高さ2分の1の水平面内に、私道や構内通路、広場を有する箇所が調査の対象として規定されています。
逆に、壁面の真下にコンクリートや鉄骨造の屋根または庇がある部分、植え込みにより通路がない部分に関しては調査が不要です。
参照:保全ニュースとうほく「建築物点検シリーズ 13 外壁点検編」
外壁打診調査の方法は赤外線法と打診法の2種類
調査の方法は、赤外線法と打診法の2種類があります。
ドローンによる赤外線外壁調査では、赤外線カメラを搭載したドローンで外壁を撮影し、温度の異常を検知して、見えない浮きや水分滞留など劣化状態の確認が可能です。
ドローンによる赤外線外壁調査は、定期報告における外壁の全面調査の調査法として、国土交通省が正式に認めています。
参照:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」
一方、打診法は、打診棒と呼ばれるものでモルタルやタイルを転がしながらチェックする方法です。
転がす音で内部のすき間を特定し、剥落の可能性がある浮きをチェックします。
人による作業のため、足場やゴンドラの設置が必要となりコストが高くつきますが、調査と同時に補修できるため、大規模な修繕を前提とした外壁調査をする際におこなわれることが多いです。
赤外線法と打診法、それぞれのメリットとデメリットをみてみましょう。
ドローンによる赤外線法のメリット

ドローンによる赤外線法のメリットは、主に次の2点です。
・コストを安く抑えられる
・安全性が高く短期間でおこなえる
順に説明します。
コストを安く抑えられる
ドローンによる赤外線調査のメリットの1点目は、コストを安く抑えられることです。
外壁調査において、最も費用がかかる部分として「足場」があげられます。
全面打診調査では、足場を組んでおこなう場合も多く、足場を組むコストが全体のコストを押し上げます。
足場を組まずにロープを使って調査する方法では、足場を組むほどにはコストはかかりませんが、実際に調査をするのは人です。
そのため、ドローンを使って撮影・調査をおこなう赤外線法の方が、コストが抑えられます。
平米当たりの費用概算 | |
赤外線調査 | 120~350円/平米 |
全面打診調査(ロープを使用する場合) | 200~700円/平米 |
全面打診調査はロープを使用する場合でも、1平米当たり200円以上のコストがかかります。
また、赤外線による調査は、高層建築物ほどコストパフォーマンスが高くなっていきます。
一般的に足場は20階建ての建物までといわれているため、それ以上の高層マンションなどは、特殊なゴンドラを使用しなければならず、その分費用がかかります。
これに対して、ドローンの赤外線調査は高さ100メートル以上でも問題なく調査できるため、高い建築物ほど全面打診調査に比べて安くなる傾向にあります。
安全性が高く短期間でおこなえる
ドローンによる赤外線調査のメリットの2点目は、安全性が高く時間短縮できる点です。
赤外線調査の場合は、足場を組んだり、ロープを準備したりする必要もなく、撮影するだけで簡単に調査を終えられます。
また、高所で人が作業する必要もありません。
落下事故などの危険性もないことから、特に学校などの公共の建築物で採用されているケースが多いです。
また、現地での撮影は数時間で終わるため短期間での調査が可能であり、1平米当たりの費用も安いことから、10年に1度の外壁全面調査に適しているといえます。
ドローンによる赤外線法のデメリット
次に、ドローンによる赤外線調査のデメリットについてみていきましょう。
デメリットは以下の2点です。
・調査結果の信用性が低い
・都内など建物の多い場所では調査できない場合がある
それぞれ説明します。
調査結果の信用性が低い
デメリットの1点目として、打診調査に比べて調査結果の信用性が低いことがあげられます。
ドローンによる点検は非接触調査になるため、建物の内部を完全に把握できません。
たとえば、「外壁のタイルが完全に浮いている場合」などは問題なく赤外線カメラでの探知が可能ですが、「タイルとモルタルは接しているが接着していないケース」などはカメラで発見できません。
打診調査であればある程度正確に確認できる場合でも、微妙な剥離の状態などを確認できない場合があります。
都内など建物の多い場所では調査できない場合がある
デメリットの2点目は、建物の多い場所で調査できない場合があるという点です。
ドローンの飛行に関しては、「航空法」や「小型無人機等飛行禁止法」などによる規制があるため、点検する対象の立地によっては、ドローン自体の飛行を制限される場合があります。
事前に建物周辺のドローンの飛行可否を確認し、ドローンを用いた調査が可能か判断する必要があるでしょう。
打診法のメリット

次に、打診法のメリットについて解説します。
打診法のメリットは次の2点です。
・調査結果の信用性が高い
・改修が同時におこなえる
それぞれ分かりやすく説明します。
調査結果の信用性が高い
打診法のメリットの1点目は、調査結果の信用性が高いことです。
打診調査による外壁点検は、テストハンマーなど専門の道具を使って外壁をたたき、響く音によって外壁の状態を確認します。
響く音の高低により外壁の劣化状態をチェックするだけでなく、目視確認や触診確認もあわせておこなうため、外壁の状態を詳しく把握可能です。
改修が同時におこなえる
改修が同時にできることも打診調査の大きなメリットです。
ドローンによる赤外線調査では、外壁の状態を撮影し異常を確認する作業のみで、異常があった場合でもその場で外壁の補修はできません。
これに対して、打診法では、調査をしながら異常が発見された外壁にその都度改修ができるため、外壁の補修工事とあわせておこなう場合には、打診法がより効率的です。
打診法のデメリット
打診法のデメリットは以下の2点です。
・時間が長くかかる
・コストが高い
それぞれ説明します。
時間が長くかかる
デメリットの1点目は、調査に時間がかかる点です。
無人のドローンによる赤外線調査に比べ、どうしても時間と手間がかかってしまいます。
足場やロープを準備する時間だけでなく、基本的にマンパワーで音と目視、触手により一箇所ずつ調査するため、正確な把握・調査が可能な反面、時間がかかる点はデメリットでしょう。
コストが高い
コストが高くつくこともデメリットとしてあげられます。
足場が必要なケースは足場代にかなりの費用がかかりますが、足場が必要ない場合でも、やはり赤外線調査に比べて人手も手間もかかるため費用が高いです。
調査費用に関しては、やはりドローンによる赤外線調査には劣ってしまうでしょう。
10年に1度の外壁全面打診調査を怠った場合のペナルティ
10年に1度の外壁全面打診調査を怠った場合のペナルティについて解説します。
主なペナルティは次の2点です。
・罰金
・事故による賠償責任
あわせて、全国で起きた外壁剥落による事故例も紹介します。
罰金
特定建築物の調査や報告を怠った、あるいは虚偽の報告をした場合には、建築基準法第101条により「100万円以下の罰金」が科せられます。
第百一条 次の各号のいずれかに該当する者は、百万円以下の罰金に処する。一 第五条の六第一項から第三項まで又は第五項の規定に違反した場合における当該建築物の工事施工者 二 第十二条第一項若しくは第三項(これらの規定を第八十八条第一項又は第三項において準用する場合を含む。)又は第五項(第二号に係る部分に限り、第八十八条第一項から第三項までにおいて準用する場合を含む。)の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者 |
引用:建築基準法「第101条」
事故による賠償責任
外壁の劣化や剥落による事故が起こった場合、民法第717条に基づいて、所有者等が損害賠償責任を負う可能性があります。
第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。 2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。 3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。 |
引用:民法「明治二十九年法律第八十九号」
たとえば、外壁が剥がれて通行人や隣接する建物に被害が及んだ場合には、損害賠償責任を負うことになるため、経済的な損失は計り知れません。
こういったリスクを最小限に抑え、建物や周辺の人々の安全を確保するためにも、12条点検に基づく外壁調査はきわめて重要です。
全国で起きた外壁剥落による事故例
こういった外壁の剥落はいまだに発生しており、事故につながっているケースも少なくありません。
以下に、特定行政庁より報告を受けた建築物事故の概要(補足資料)から一部をご紹介します。
発生年月日 | 発生場所 | 建築物用途 | 状 況 | 被害の程度 |
H30/10/01 | 神奈川県内 | 店舗・事務所 | 地上9階建てビルの屋上から、金属性のパネル(屋上の化粧壁の一部)が落下し、歩行者に当たった。 | 死亡1名 |
H31/04/20 | 香川県内 | 体育館 | トイレ個室の人造大理石製の仕切板に、個室内の利用者が荷物を吊ろうとしたところ、仕切板が外側に倒れ、別の利用者に当たった。 | 重傷1名 |
R01/06/04 | 兵庫県内 | 公衆浴場 | 公衆浴場の洗い場カラン袖壁が倒壊して利用者が負傷した。 | 重傷1名 |
H31/04/17 | 熊本県内 | 共同住宅 | マンション11階の外壁タイル(約40cm×40cm)が走行中の乗用車の窓ガラスに落下し、運転者及び同乗者が負傷した。 | 軽傷2名 |
R01/07/31 | 東京都内 | 共同住宅 | 外壁タイルの一部が高さ約4mから長さ約20mに渡り道路へ崩落し、歩行者1名が負傷した。 | 軽傷1名 |
H30/04/10 | 大阪府内 | 事務所 | 事務所4階の外壁タイル(高さ約2m、幅約5m)が剥落し、歩道に落下した。 | なし |
H30/04/24 | 長崎県内 | 店舗 | 4階の外壁タイル(高さ約6m、幅約6 m)が剥落し、前面道路に落下した。 | なし |
引用:特定行政庁より報告を受けた建築物事故の概要(補足資料)
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