ホームインスペクションとは住宅診断のことです。住宅診断士と呼ばれるインスペクターが、第三者的な立場から住宅の劣化状況や欠陥の有無、改修すべき箇所などをアドバイスします。買い主が住宅などを購入する際の安心を得るために利用するケースが多いです。しかしながら、このホームインスペクションを依頼しても売り主側や不動産会社から拒否されることが多いという現実があります。
この記事では
・ホームインスペクションが拒否される理由
・ホームインスペクションを拒否された場合の対処法
・ホームインスペクションの必要性や実施するタイミング
これら3点を分かりやすく解説します。
この記事を読んで、ホームインスペクションに関する不安や疑問が解決できる手助けになればと思います。
ホームインスペクションを拒否されるケースは多い?
「ホームインスペクションを拒否されるケースは多いですか?」という質問をよく耳にします。
結論から述べると、残念ながらホームインスペクションを拒否されるケースは多いのが現実です。
欧米では当然のように利用されているホームインスペクションですが、日本ではまだまだ認知度が低く普及率も高くはありませんでした。しかし、2018年4月に施工された宅地建物取引業法の改正によって既存住宅(中古住宅)に関する売買の際に、不動産会社等の斡旋業者(宅建業者)はホームインスペクションの告知が義務化されてから、ホームインスペクションのニーズはかなり高まってきました。
ホームインスペクションが拒否される6つの理由
ここでは、ホームインスペクションが拒否される理由を説明します。
拒否される理由は以下の6点です。
・買い主が購入をキャンセルすることを恐れている
・他の不動産会社に先に売られてしまう可能性がある
・建物に知られたくない欠陥があることを隠蔽しようとしている
・インスペクターから指摘されたことに対する対応が面倒だと思っている
・すでに検査を済ませており不要と判断している
・売り主がホームインスペクションを嫌がることを不動産会社が心配する
順に説明します。
買い主が購入をキャンセルすることを恐れている
ホームインスペクションを行った結果、欠陥あるいは不具合が見つかった場合、その程度や状況によっては買い主が購入自体をキャンセルすることを不動産会社が恐れている、ということが原因の1つ目です。
不動産会社は売ってなんぼの世界です。せっかくうまくいきかけた商談が、住宅診断の結果白紙に戻ってしまうことを避けたいのが不動産会社の担当者の本音といえます。
他の不動産会社に先に売られてしまう可能性がある
不動産会社が斡旋する住宅物件は基本的に早い者勝ちです。特に優良物件は同時に多くの購入希望者が購入を検討するため、不動産会社の間でも取り合いになることが珍しくありません。顧客がホームインスペクションを受けている間に、他の不動産会社の顧客に先取りされてしまうことを心配しているのが理由の1つです。
建物に知られたくない欠陥があることを隠蔽しようとしている
建物に欠陥や不具合があることに気付いている不動産業者も存在します。インスペクションを行うことにより販売できなくなる可能性があるため、事実を隠蔽しようと、調査を拒否するのです。
買い主にとって不利益になることを隠すなど言語道断ですが、こういった仲介業者も一定数いるかもしれないことを把握しておきましょう。
インスペクターから指摘されたことに対する対応が面倒だと思っている
仲介業者が、ホームインスペクションを行った結果インスペクターから受けた指摘に対して面倒だと感じがちなことも大きな理由です。
そもそも、不動産会社の営業マンはホームインスペクションを手配することも、調査の結果次第で欠陥や不具合に対する対応をすること自体も面倒に感じています。立場上、何の得にもならないからと考えているからだと想定されますが、一生に一度かもしれない大きな決断をする際の担当者として、お客様ファーストの立場で対応できる営業マンかどうか見極めることが大切です。
すでに検査を済ませており不要と判断している
ホームインスペクションを依頼した際に、ハウスメーカーの担当者から「すでに検査済みですから必要ありません」といわれるケースもあります。この検査とはおそらく「第三者検査」のことです。ハウスメーカーは新築の場合、買い主に住宅を引き渡してから10年間、「瑕疵担保責任」を負わなければなりません。瑕疵担保責任とは、買い主側が確認しても分からなかった欠陥があったときにハウスメーカーが負う責任のことです。その瑕疵保険に加入するための保険が第三者保険で、検査の内容も形式的なものです。
他にも建築後に行う竣工検査や完了検査も当然行われていますが、いずれも簡易的な検査であるため、施工の欠陥や不具合を確実に見つけられるわけではありません。
ホームインスペクションとは根本的にまったく異なるものです。
売り主がホームインスペクションを嫌がることを不動産会社が心配する
売り主がホームインスペクションを嫌がることを、不動産会社が心配することも拒否される理由の1つです。
そもそも、売り主は少しでも高く物件を販売したいものです。ホームインスペクションを実施して不具合が見つかり、修繕費用が発生するのを避けたいと考える売主もいるでしょう。
売り主の機嫌を損ねることを過剰に心配して、「できればホームインスペクションをさせたくない」という理由から拒否するのです。
ホームインスペクションを拒否されたときの対処法
ホームインスペクションを実際に拒否された場合にはどう対処すればよいのでしょうか?
具体的な対処法は次の6点です。
・買い主には検査を受ける権利があることを伝える
・検査を拒否するならば購入しない旨を伝える
・交渉しても断られたら場合には契約をしない(キャンセルする)
・拒否された背景や理由を鑑みてコミュニケーションを図る
・他の物件も検討する
・検査会社に相談してみる
1点ずつ説明します。
買い主には検査を受ける権利があることを伝える
そもそも、住宅を購入してそこに住むのは買い主です。購入後、安心して生活するために、不具合や欠陥がないか確認するのは買い主側の当然の権利です。
安心して暮らせるかどうか確認するために、検査を受けたい旨をきちんと主張し、依頼することが重要です。
検査を拒否するならば購入しない旨を伝える
どうしても検査を拒否するなら購入しないという意思をはっきり伝えることも大切です。販売する側も肝心の住宅自体が売れないとなると元も子もありません。住宅購入は勇気のいる決断かつ、一生に一度かもしれないことを伝えましょう。ホームインスペクションを受けることは、買い主にとってそれほど大事なことだと、売り主や仲介業者に認識してもらうことにもつながります。
交渉しても断られたら場合には契約をしない(キャンセルする)
誠意を持って交渉しても断られた場合には契約をしない、あるいは契約をキャンセルすることも検討しましょう。ホームインスペクションを受けることなく家を購入するリスクを考えれば、今の物件にこだわりすぎることはないと冷静に判断しましょう。
拒否された背景や理由を鑑みてコミュニケーションを図る
ホームインスペクションを拒否された場合の背景や理由をよく整理してみることも大切です。
売り主や仲介業者がなぜ、調査を拒否するのか?その根本的なネックとなっていることをお互いにコミュニケーションを取り合うことで解決するケースも少なくありません。安心して住みたい、住み始めた後から嫌な思いをしたくないという思いをお互いが共有できるように、膝を割って話し合ってみましょう。
他の物件も検討する
ホームインスペクションをどうしても受け入れてもらえないときは、他の物件も検討しましょう。
安心して住むことが叶わない、購入後に大きな欠陥が見つかって大変な目にあう、などのリスクを負ったまま購入に至ることは危険極まりないからです。
後々、後悔しないように選択肢を広げることは非常に大切です。
検査会社に相談してみる
ホームインスペクションを請け負う検査会社に相談してみることも有用です。
これまで、多くのケースに遭遇してきた経験から、客観的な立場で有効なアドバイスをもらえる場合があります。専門的な技術と知識を持っているため、ハウスメーカーや仲介する不動産会社とのやり取りのなかで、よく分からない、判断できないことなどに対して心強い相談相手になるケースも多いです。
ホームインスペクションを受けるべき理由
ホームインスペクションを受けるべき理由は次の3点です。
・瑕疵が見つかった場合売り主に責任の追及ができる
・建物の安全性を確認できる
・安心・安全の状態で住み始めることができる
それぞれ解説します。
瑕疵が見つかった場合売り主に責任の追及ができる
ホームインスペクションを受けていれば、瑕疵が見つかった場合に売り主側に責任を追及することができます。2020年4月の民法改正により、目的物が契約内容に適合していない場合に「契約不適合責任の追及」ができるようになったからです。
購入した住宅が契約内容と不適合だったときには、売り主側に損害賠償の請求や契約の解除ができます。
参考:法務省民事局「民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-」(43~44ページ)
建物の安全性を確認できる
ホームインスペクションを受けることで、台風や大雨、地震などの災害に対する耐震性がある程度分かります。実際に災害に遭遇した場合でも、耐震性を把握できていることで精神的にも安心して備えることができます。もしものときに慌てなくて済むよう、事前に住む家の耐震性を知っておくことは重要です。
安心・安全の状態で住み始めることができる
ホームインスペクションを受けていれば、何か不具合が見つかった場合に、修繕してもらうことにより安心・安全の状態で住み始めることができます。
検査を受けなければ住み始めた後に欠陥が見つかり、修繕のための費用がかかるなど、不愉快な思いをする可能性があります。
ホームインスペクションを受けるタイミング
ホームインスペクションを受けるタイミングはいつがいいのでしょうか?
中古物件の場合は制度の説明が義務化されているため、今回は新築戸建てのケースを例にご説明します。
一般的な住宅購入に関する流れは下記のとおりです。
【住宅購入の流れ】
物件の見学 ➡ 申し込み ➡ 契約 ➡ 内覧会 ➡ 引き渡し ➡ 入居開始 |
申し込み後から契約前
物件の見学 ➡ 申し込み ➡ 契約 ➡ 内覧会 ➡ 引き渡し ➡ 入居開始 |
ホームインスペクションを受けるタイミングは、申し込み後から契約前までがベストです。
契約前にホームインスペクションを行えば、調査の結果次第で物件の購入を取りやめることができます。ただし、違約金は発生しませんが、インスペクションを行っている間に他の購入希望者が契約してしまうリスクがあります。
契約後から引き渡し前
物件の見学 ➡ 申し込み ➡ 契約 ➡ 内覧会 ➡ 引き渡し ➡ 入居開始 |
契約後に心配になり、インスペクションを受ける方もいます。
契約後に受ける場合には物件の引き渡し前に行いましょう。
契約解除はできませんが、引き渡し前に不具合の箇所を修繕してから入居することができます。
引き渡し後
物件の見学 ➡ 申し込み ➡ 契約 ➡ 内覧会 ➡ 引き渡し ➡ 入居開始 |
引き渡し後も瑕疵担保責任期間であれば、物件に不具合があった場合の責任は売り主側にあります。
ただし、引き渡し後にインスペクションを依頼する場合には早めに行いましょう。
アフターサービスや瑕疵担保責任期間は、物件等により条件が異なりますがおおむね2年間です。
ホームインスペクションを受けて安心して新しい生活をスタートしよう
以前に比べホームインスペクションのニーズは年々増加しています。にも関わらず、先述したようにホームインスペクション自体をよく理解していないハウスメーカーや不動産会社が多いのも事実です。
人生の大半を共にする住まいのことをよく理解するために、ホームインスペクションを受けることで享受できるメリットは図りしれません。
ホームインスペクションを受けて、安心して快適に新たな生活をスタートしましょう。