災害が起こり停電となった場合に、非常に重要な役割を担うのが非常用発電機です。その理由は独自に電力を供給し消防設備や非常用設備を作動させ、人命の救助や被害の拡大防止につながるからです。その非常用発電機を非常時に確実に稼働させるために、負荷試験という点検が消防法によって義務づけられています。この負荷試験は、もともと1年に1度実施されていましたが、2018年6月の消防庁の自家発電設備の点検方法の改正により特定の条件を満たした場合、6年の周期に変更となりました。この記事では、
・負荷試験の周期が6年に1度に延長される条件
・負荷試験の費用の相場
・負荷試験の点検方法のパターン
について詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。
非常用発電機の負荷試験は1年に1度必要!条件を満たせば6年に1度にもできる
非常用発電機の負荷試験は1年に1度必要です。
ただ、2018年6月の消防庁の自家発電設備の点検方法の改正により、一定の条件を満たせば6年に1度の周期で行うことが可能になりました。
ここでは、負荷試験が法令で義務づけられている内容について説明します。
非常用発電機の負荷試験は消防法などの法令で義務づけられている
非常用発電機は延べ床面積1,000平方メートル以上の特定防火対象物に指定される施設や建物に設置が義務づけられています。
【特定防火対象物とは】不特定多数の人が出入りする建物、または災害時などに避難することが困難と予想される施設のことを指します。具体的にはホテルや百貨店、映画館などの建物および病院や老人ホーム、障害者施設などの社会福祉施設などが含まれます。 |
「負荷試験」とは、災害時に非常用発電機が消防設備を正常に作動させるための発電能力に問題がないかを確認するために、消防法で義務づけている試験です。定格出力が30%以上の負荷を、一定時間かけ続ける試験が推奨されています。
万が一の災害時に非常用発電機が正常に作動するように、重要な点検の一環として国が義務づけています。
2018年の消防庁の自家発電設備の点検方法の改正以降も、特定の条件を満たさない場合には、1年に1度の実施が必要な重要事項だということを理解しておきましょう。
非常用発電機の点検方法改正の4つのポイント
先述したように、負荷試験は1年に1度行われていましたが、2018年6月の消防庁の自家発電設備の点検方法の改正により一定の条件を満たせば6年に1度に延長できることになりました。
非常用発電機の点検方法の改正の4つのポイントについて解説する際に、下記の消防庁の発信内容を参考にしています。
改正に至った主な理由は次の2点です。
・負荷運転実施の際、商用電源を停電させなければ実負荷による点検ができない場合があるため
・屋上や地階など自家発電設備が設置されている場所によっては、疑似負荷装置の配置が困難となり、疑似負荷装置を利用した点検ができない場合があるため
具体的な改正のポイントは以下の4点です。
・総合点検における運転性能の確認に内部観察等を追加
・負荷試験および内部観察等の点検周期を6年に1度に延長
・原動機にガスタービンを用いる負荷試験は不要
・換気性能点検は負荷試験ではなく、無負荷運転時に実施するよう変更
順に説明します。
総合点検における運転性能の確認に内部観察等を追加
内部観察という点検方法を実施すれば、これまで義務であった負荷試験を行わなくてもよくなりました。
主な理由は次の2点です。
・検証データにより、試験時に確認できていた不具合が試験時と同等、もしくはそれ以上の水準で確認できたこと
・検証データにより、排気系統等に蓄積していた未燃焼燃料などが試験時と同レベル以上に確認できたこと
【内部観察について】内部観察で確認する項目は以下のとおりです。過給機コンプレッサ翼およびタービン翼、排気管の内部観察燃料噴射弁の動作確認シリンダー摺動面の内部観察潤滑油の成分分析冷却水の成分分析内部観察では、非常用発電機の各部品を取り外して詳細に点検します。異常が見つかった場合は、部品の交換や洗浄を行う必要があります。 |
特定の条件下において負荷試験および内部観察等の点検周期を6年に1度に延長
運転性能の維持にかかる予防的な保全策が講じられている場合には、負荷試験および内部観察等の点検周期が6年に1回に延長されることになりました。主な理由は以下のとおりです。
・検証データにより、負荷試験時に確認されていた不具合を発生させる原因となる部品の推奨交換年数が6年以上であることが確認されたこと
・検証データにより、経年劣化しやすい部品等を適切に交換していれば運転性能に支障がないと確認されたこと
※「運転性能の維持にかかる予防的な保全策が講じられている場合には」という部分に関しては後ほど説明します。
原動機にガスタービンを用いる非常用発電機の負荷試験は不要
これまでは、すべての非常用発電機に負荷試験が義務づけられていましたが、原動機にガスタービンを用いる負荷試験は不要になりました。
理由は、原動機にガスタービンを用いる負荷試験とディーゼルエンジンを用いた場合と機械的、熱的負荷に差が見られず、排気系統などにおける未燃焼燃料の蓄積もほとんど発生しないことが燃料消費量のデータから実証できたからです。
換気性能点検は負荷試験ではなく、無負荷運転時に実施するよう変更
換気性能点検に関しては、負荷運転ではなく無負荷運転時に実施するよう変更になりました。
換気性能は検証データにより、負荷運転時よりも無負荷運転時における自然換気口や機械換気装置の確認の方が必要であると分かったことが理由です。
非常用発電機の負荷試験の周期を6年にするためには「予防的な保全策」が条件
先述しましたが、非常用発電機の負荷試験の周期を6年にするためには「予防的な保全策」を講じることが条件です。ここでは、予防的な保全策について説明します。
【予防的な保全策とは】予防的な保全策とは、将来起こりうるトラブルを防ぐことを目的として、非常用発電機の各部を定期的に点検し、必要に応じて部品を交換することです。 ◎不具合を予防する保全策には以下の確認や交換が必要です。・予熱栓、点火栓、冷却水ヒーター、潤滑油プライミングポンプが設置されている場合、これらの部品は1年ごとに確認が必要・潤滑油、冷却水、燃料フィルター、潤滑油フィルター、ファン駆動用ベルト、冷却水ホース、シール材、始動用蓄電池などは、メーカーが指定する推奨交換期間内に交換が必要 |
試験の周期を6年に1回の周期に延ばす代わりに予防的な保全策を毎年実施する必要があります。
非常用発電機の点検方法3つのパターン
自家発電設備の点検基準が改正されたことにより、非常用発電機の点検方法が次の3パターンになりました。
・毎年負荷試験を行う
・負荷試験と予防的保全策の組み合わせ
・内部観察と予防的保全策の組み合わせ
順に説明します。
毎年負荷試験を行う
1つめのパターンは従来どおり毎年負荷試験を行うケースです。
【毎年負荷試験を行うパターン】
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 6年目 |
負荷試験 | 負荷試験 | 負荷試験 | 負荷試験 | 負荷試験 | 負荷試験 |
特に、2通りある負荷試験のうちの擬似負荷試験を選択すれば、停電の必要もなく2~3名のスタッフで2~3時間という短時間で負荷試験が行えるため、多くの施設や事業所がこの点検方法を採用しています。
負荷試験と予防的保全策の組み合わせ
2つめのパターンは負荷試験と予防的な保全策を組み合わせて行うケースです。
【6年に1度負荷試験を行い、他の5年間は予防的保全策を行うパターン】
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 6年目 |
負荷試験 | 予防的保全策 | 予防的保全策 | 予防的保全策 | 予防的保全策 | 予防的保全策 |
毎年行っていた負荷試験を6年周期にする代わりに1年ごとに予防的な保全策を行います。
予防的な保全策は、非常用発電機の不具合や欠陥が生じる前に、各部を定期的に点検し必要に応じて部品の交換等の対策を講じることです。報告の義務も毎年発生し、毎年試験を行う場合より時間と手間、コストもかかりすぎてしまう場合があるので注意しましょう。
内部観察と予防的保全策の組み合わせ
jikahatsuden_kaisei_omote_nyuko_0605 (city.nagoya.jp)
最後のパターンは6年に1度負荷試験の代わりに内部観察を行い、他の5年間は予防的保全策を実施する場合です。
【6年に1度内部観察を行い他の5年間は予防的保全策を行うパターン】
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 6年目 |
内部観察 | 予防的保全策 | 予防的保全策 | 予防的保全策 | 予防的保全策 | 予防的保全策 |
内部観察は、非常用発電機の各部品を取り外して詳細に点検します。状況に応じて部品の交換や洗浄が必要です。内部観察にしても予防的保全策にしても、負荷試験に比べて時間やコストがかかってしまう場合があるため、注意が必要です。
また、一見すると負荷試験の周期が長くなることでコストが安くなると思われがちですが、予防的保全策は多額のメンテナンス費用がかかることが多く、結果的には毎年負荷試験の実施を繰り返していく方がランニングコストは安くなることが多いです。実際にコストを試算する際は、依頼する点検業者に相談してみましょう。
非常用発電機の負荷試験にかかる費用の相場
負荷試験にかかる費用は、発電機の容量によって変わります。
目安としては、発電機の容量が20kw以下の場合15〜20万円、容量が230kw以上の場合30〜50万円ほどです。
定格出力が30%以上の負荷をかける場合に比べ、100%の負荷をかける場合は費用が高いです。
負荷試験が義務づけられる前までは、大容量の発電機の負荷試験には100万円以上かかっていたので、その当時に比べるとずいぶん安くなりました。
依頼する点検業者に見積もりを依頼する際には、もちろん事前に検査する現場を下見してもらう必要がありますが、その前に発電機を設置している場所や、発電機の容量を先方に伝えるようにしましょう。
非常用発電機に関するよくある質問
非常用発電機に関するよくある質問を紹介します。
非常用発電機の負荷試験は義務化されていますか?
非常用発電機の負荷試験は消防法により1年に1回の負荷試験が義務づけられています。また、定格出力が30%以上の負荷をかけて30分以上運転することも合わせて推奨されています。
2018年6月以降は、負荷試験を行えない場合等、代わりに内部観察等による点検を受ければよいことになりました。また運転性の維持に関わる予防的な保全策を講じている場合には、周期を6年に1回に延長することが可能となっています。
なお、これらの義務化されている法令に違反すると管理会社や管理者、担当者に罰則が課せられます。
非常用発電機の耐用年数は?
非常用発電機の法定耐用年数は15年ですが、国土交通省官庁営繕基準の耐用年数は30年と基準によってそれぞれ耐用年数は異なります。
非常用発電機が安定的に稼働できる年数はおおむね20年です。 設置して20年が経過する場合には設備の入れ替えを検討しましょう。
非常用発電機の対象となる建物は?
延べ床面積1,000平方メートル以上の特定防火対象物に指定される建物が対象です。不特定多数の人が出入りする建物、学校、工場、映画館、スーパー、旅館、飲食店、商業ビルやテナントビル、また災害時に避難することが困難と予想される特別養護老人ホーム、障害者施設などの社会福祉施設がこれにあたります。これらの建物には消防設備を設置する義務があり、火災時の電源の供給のために防火用非常用発電機や蓄電池設備の設置が必要です。
非常用発電機の負荷試験の方法は?
非常用発電機は法令により、1年に1回の負荷試験、予防のための保全策を講じている場合には6年に1回の負荷試験もしくは内部観察等による点検が必要です。
負荷試験は原則として30%以上の負荷運転を30分以上続ける必要があります。負荷試験には実負荷試験と疑似負荷試験の2種類がありますが、停電の必要もなく少人数で短い時間で検査を行える疑似負荷試験が主流となっています。
非常用発電機の点検や費用についてお気軽にお問い合わせください
非常用発電機は、万が一のときに備えるための大切な設備ですが、普段使うことがほとんどないため管理や点検に関する意識がうすい方が多いのも事実です。しかし、昨今地震や水害など私たちのまわりで多くの災害が発生しており、決して他人事ではありません。非常時に備え非常用発電機の重要性に高い関心を持つ事業所の方が多くなってきています。
点検の種類や方法は複雑で頭を悩ますことも多いと思います。有事に備えるために必要不可欠な非常用発電機の各種点検や費用について、お気軽に弊社へお問い合わせください。