非常用発電機は、災害時に電力会社からの電気が止まったときに独自に電力を供給するための設備です。消防法では、この非常用発電機に負荷試験という点検を義務づけています。
地震などの災害により停電となり、同時に火災が発生した場合などに非常用発電機が消防設備に電源を供給できないと、人命に関わり被害が大きくなるからです。この記事では以下の3点について解説します。
・消防法により義務づけられている非常用発電機の負荷試験の内容
・非常用発電の負荷試験を実施する頻度
・義務づけられている点検を怠った場合の罰則
消防法により義務づけられている非常用発電機の負荷試験とは?
消防法により義務づけられている非常用発電機の負荷試験とは、非常用発電機が消防設備を正常に稼働させる発電能力を有しているかを確認する試験です。ここでは、非常用発電機の負荷試験が消防法により義務づけられている理由や、消防庁が規定する負荷試験の具体的な内容について説明します。
非常用発電機の負荷試験が消防法により義務づけられている理由
非常用発電機は災害時に火災が発生し停電となった際に、消防用設備や非常用設備に電力を供給することにより、人命救助や復旧作業に役立ちます。
1,000平方メートル以上の特定防火対象物に設置が義務づけられています。
特定防火対象物とは、不特定多数の人が出入りする建物、または災害時に避難することが困難と予想される施設のことです。具体的には、ホテルや映画館、旅館、百貨店、病院や、老人ホーム・障害者施設を含む社会福祉施設などが含まれます。 |
非常時の電力供給減である重要な非常用発電機が災害時に作動しなければ、多くの人命に関わる大きな被害の拡大につながります。スプリンクラーや消火栓などの消防用設備、非常灯、非常用ベルなどの非常用設備が作動せず、初期消火活動や避難ができなくなるからです。
不測の事態に備えるため、消防法では非常用発電機の負荷試験が義務づけられています。
それでは、消防法が義務づける負荷試験とはどのような内容なのでしょうか?次の章で詳しく解説します。
消防庁が規定する負荷試験とは?
消防庁が規定する負荷試験とは、非常用発電機が消防設備を正常に稼働させる発電能力があるかどうかを確認する試験です。
負荷試験は車の走行テストに例えられます。普段使っていない車のエンジンをかけてみるだけでは、本当に走りだせるのかは分かりません。走ったとしても実際に必要な距離を走り続けられるかは分からないのと同様です。
消防法では、連続運転性能や換気の状況を確認するために、定格出力の30%以上の負荷を一定時間与える負荷試験の実施が奨励されています。同時に無負荷運転で内部にたまったカーボンなどを排出し、エンジンの調子を良くすることもできます。
消防法で定められている非常用発電機に必要な2種類の点検
ここでは、消防法に基づいて実施が義務づけられている非常用発電機の2種類の点検について説明します。それぞれの点検の違いは、実施する頻度とチェックする内容です。
・半年に1回の機器点検
・1年に1回の総合点検
それぞれ説明します。
なお、次項で解説する点検項目は、消防庁告示第14号を参考にしています。
消防用設備等の点検の基準及び消防用設備等点検結果報告書に 添付する点検票の様式を定める件
半年に1回の機器点検
機器点検は半年に1回必要です。これは、消防用設備やその他の機器が正常に動作するかを確認するための定期的な点検です。
非常用発電機を、負荷をかけずに稼働させて、正常に運転できるかどうかを確認します。自動車に例えると、ふかし運転でエンジンの状況をチェックするようなイメージです。具体的には設置状況・始動装置・冷却水・排気筒など、合計18項目を点検します。
1年に1回の総合点検
総合点検は1年に1回必要です。消防用設備全体の機能を確認するための検査で、非常用発電機、消火設備、警報装置など、すべての関連機器が正常に作動するかを点検します。
負荷試験は、総合点検の一部です。定格出力30%以上の負荷をかけて異常がないか確認します。点検項目は、自家発電装置の接続部、保護装置、運転性能、切り替え性能などの7項目です。総合点検は、災害発生時を想定して実施する点検です。
消防法で定められている非常用発電機の2種類の負荷試験と内部観察について
消防法に基づく非常用発電機の点検方法は、次の3つです。
1.実際の設備を稼働させる「実負荷試験」
2.専用装置を使用する「疑似負荷試験」
3.負荷試験に代わる点検方法「内部観察」
それぞれの方法を解説します。
実際の設備を使用する「実負荷試験」
実負荷試験は、消火栓やスプリンクラーなどの消防設備、非常用照明やエレベーターなどの設備を実際に稼働させ、災害時の状況を想定して非常用発電機に負荷をかける方法です。この方法には以下のメリットとデメリットがあります。
実負荷試験のメリットは、正確な動作確認ができることです。各消防用設備や非常用設備が確実に動作するかどうかを直接確認でき、実際の設備を使ってシミュレーションすることで、安心感が高まります。
実負荷試験のデメリットは、停電が必要なことです。特に、病院など停電が許されない施設では実施が困難です。また、実際の設備を使用するため、高い負荷をかけた点検が難しく、試験の精度が安定しない可能性もあります。
専用装置を使用する「疑似負荷試験」
疑似負荷試験は、非常用発電機を消防用設備や非常用設備から一時的に切り離し、専用の装置を用いて負荷をかける方法です。この方法のメリットとデメリットは以下のとおりです。
疑似負荷試験のメリットは、停電が不要な点です。非常用発電機と設備を分離して検査を行うため、病院や施設でも問題なく作業ができます。さらに、専用装置を使用することで安定した負荷をかけることができ、試験の信頼性が高まります。
疑似負荷試験のデメリットは、実際の消火設備や非常用設備の動作確認はできない点です。非常用発電機の動作状況はもちろん確認できますが、電力の供給先である、消火栓やスプリンクラー、非常灯やエレベーターなどの動作確認はできません。疑似負荷試験の欠点は、設備と発電機の連動性を別途確認する必要があることです。しかし、現代では多くの施設で実負荷試験に代わり、疑似負荷試験が採用されています。
負荷試験に代わる点検方法「内部観察」
内部観察は、負荷試験が困難な場合の代替点検方法です。発電機の内部を観察して点検する方法で、2018年6月1日に自家発電設備の点検方法が改正される際に追加されました。内部観察を行うことで負荷試験は免除されます。
内部観察で確認する項目は以下のとおりです。
1.過給器コンプレッサ翼およびタービン翼、排気管の内部観察
2.燃料噴射弁の動作確認
3.シリンダー摺動面の内部観察
4.潤滑油の成分分析
5.冷却水の成分分析
内部観察では、非常用発電機の各部品を取り外して細かく点検します。異常が見つかった場合は、部品の交換や洗浄を行います。しかし、内部観察は負荷試験に比べて時間と費用がかかります。
疑似負荷試験にかかる時間が2~3時間に対して、内部観察は2~3日かかってしまい、1回当たりの費用も高くなります。作業の内容が複雑で時間も要し、部品のコストも高いためです。さらに、内部観察の場合、基本的には1年ごとに報告書の提出が必要です。
参考:「自家発電設備の点検基準等の改正」
非常用発電機の負荷試験を行う頻度は?
これまで非常用発電機の負荷試験は毎年実施することが義務づけられていましたが、特定の条件を満たす場合には6年に1度の頻度で実施することが認められています。この変更は、以下の実機検証データに基づいています。
・部品の交換推奨期間:負荷運転で確認された不具合のある部品の交換年推奨期間が6年以上であること
・未燃焼燃料の蓄積:無負荷運転を6年間行っても、運転性能に支障をきたす未燃焼燃料が蓄積されないこと
ただし、燃料供給や燃焼、冷却が適切に行われなかった場合、未燃焼燃料が蓄積されるリスクがあります。そのため、負荷試験を6年に1度に延長するためには「予防的な保全策」が必要です。
予防的な保全策とは? 予防的な保全策とは、非常用発電機の各部を定期的に点検し、必要に応じて部品を交換することで、将来起こりうるトラブルを防ぐことです。不具合を予防する保全策には以下の確認や交換が含まれます。 1年ごとの確認:予熱栓、点火栓、冷却水ヒーター、潤滑油プライミングポンプが設置されている場合、これらの部品は1年ごとに確認が必要 メーカー推奨期間内の交換:潤滑油、冷却水、燃料フィルター、潤滑油フィルター、ファン駆動用ベルト、冷却水ホース、シール材、始動用蓄電池等などは、メーカーが指定する推奨交換期間内に交換が必要 |
また、6年に1回の負荷試験でよくなるために行う予防的な保全策も、基本的には1年ごとの確認が必要になり、消防への書類報告が必要です。
消防法により義務づけられている非常用発電機の負荷試験などの点検を怠った場合の罰則
非常用発電機の負荷試験などの点検を怠った場合には罰則があります。消防法という法令で、義務として行うことが定められているからです。
電気事業法、建築基準法、消防法、各法令の罰則を表を使って紹介します。
罰則の対象者 | 罰則の内容 | 特記事項 | |
電気事業法 | 技術基準に適合していないと認められる発電設備の設置者(電気事業法代40条) | 技術基準への適合命令または使用制限 | 技術基準への適合命令とは、求められている技術基準に合わせた仕事をするよう要求されること |
建築基準法 | 検査報告をしない者または虚偽の報告をした者(建築基準法第101条) | 100万円以下の罰金 | 注意すべき点は、負荷試験を実施していても、報告がなければ罰せられるという点です |
消防法 | 点検報告をしない者又は虚偽の報告をしたもの(消防法第44条11号) | 30万円以下の罰金または拘留 | 拘留とは拘置所で1~30日間、身柄を拘束される刑罰 |
罰金の額は、建築基準法の100万円以下に比べ、消防法では30万円以下と低いですが、拘留される可能性があり他の法令に比べて最も重い内容となっています。消防法における非常用発電機の点検義務を怠ることは、非常時の人命に関わることであり、また被害の拡大につながる可能性があるからです。
転ばぬ先の杖としても、非常用発電機の負荷試験もしくは内部観察などの点検は必ず行いましょう。
また、前述したホテルや百貨店、映画館など不特定多数の人が出入りする建物や、病院や社会福祉施設など災害時に自力で非難することが困難な人が利用する施設で「特定防火対象物」に指定されているところは、非常用発電機の設置が義務づけられている場合があります。
設置が義務づけられているにも関わらず、設置されていない場合や、設置していても維持管理が不適切で主な機能が失われている場合には、消防組合のホームページや消防本部・消防署または出張所に違反のある建物が公表されます。
今一度、消防設備等に関してよくチェックすることをおすすめします。
負荷試験後には消防庁が定める総合点検報告書の提出が必要
非常用発電機の負荷試験を行わなかった場合の罰則を説明しましたが、点検を行っても報告書を提出しなければ、点検を行わなかった場合と同様「30万円以下の罰金もしくは拘留」の内容で罰せられますのでご注意ください。
また、点検を行っていないのに、行ったと虚偽の報告をした場合も同様に罰せられます。
参考:一般財団法人日本消防設備安全センター「消防法の命令違反概要・罰則規定一覧」
非常用発電機の負荷試験の届け出は所轄の消防署へ行います。負荷試験は消防法における総合点検の1つであるため、届出も消防法の総合点検報告書とともに行います。
負荷試験を行う際は、消防署に提出できる報告書を準備してもらえる業者に依頼しましょう。
非常用発電機の点検や負荷試験は消防法に則って正しく実施する
ここまで、非常用発電機の負荷試験について解説してきました。非常用発電機の点検、負荷試験に関するポイントをおさらいします。
地震などの災害時に停電となり同時に火災が発生した際に非常用発電機が正常に動作するよう、消防法で半年に1回の機器点検と1年に1回の総合点検を定めています。さらに、総合点検では、実際に非常用発電機に負荷をかけて点検する負荷試験が義務づけられています。
負荷試験には実負荷試験と疑似負荷試験の2種類があるが、いずれも困難な場合には非常用発電機の部品を取り外し、各箇所を詳細に点検する内部観察という代案の点検方法があります。
点検や報告を怠ると罰則があり、非常時に動作しない可能性もあるため、点検や負荷試験は消防法に則って正しく行われているかを把握しましょう。
ご不明な点等があれば、お気軽にお問い合わせください。