建築設備定期検査とは、建築基準法第12条に基づいておこなわれる「12条点検」の中の一つで、不特定多数の人が利用する建築物の安全を確保するために欠かせない検査です。
この記事では、以下の内容について詳しく説明します。
・建築設備定期検査の具体的な調査内容
・建築設備定期検査の費用相場や点検・報告の流れ
建築設備定期検査に関する知識を深めたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
建築設備定期検査とは?
建築設備定期検査とは、建築基準法により定められている法的検査です。
「特定建築物定期調査」「昇降機等定期調査」「防火設備検査」と並ぶ「12条点検」の一つで、建物の老朽化や設備の不具合を早期に発見することによって、事故や災害を未然に防ぎます。
一定の規模・用途の建物の所有者または管理者は、建物を利用する人の安全を維持するために、建物の設備に関して定期的に検査をおこなわなければなりません。
ここでは、下記の2点について説明します。
・特定建築物定期調査と建築設備定期検査の違い
・建築設備定期検査の対象となる建築物
それぞれ詳しくみていきましょう。
特定建築物定期調査と建築設備定期検査の違い
建築設備定期検査は、同じ建築基準法第12条に規定されている「特定建築物定期調査」と名称も似ているため混同されやすいです。
両者の違いについてみていきましょう。
建築設備定期検査は、給排水設備や換気設備など、その建物に備わっている設備が対象です。
一方特定建築物定期調査は、建物そのものを検査します。
床・天井・屋上や避難施設等に加えて外壁や敷地も対象です。
建築設備定期検査と特定建築物定期調査は、検査対象が建物に備わっている設備と、建物そのものであるという点に違いがあることを覚えておきましょう。
建築設備定期検査の対象となる建築物
特定建築物として特定行政庁によって指定された建物のうち、換気設備・排煙設備・非常用照明装置・給排水設備が設置されている建築物が建築設備定期検査の対象です。
具体的には、劇場や映画館・旅館・ホテル・百貨店・病院などの建築物において、国と特定行政庁によって定められた規模や階数などの条件を満たす場合に、その建物は特定建築物となり、検査の対象となります。
【特定行政庁について】建築確認申請などを取り扱う公務員の資格をもった建築主事が人口25万人以上の自治体に設置されており、この建築主事が設けられた都道府県のことを「特定行政庁」と呼びます。 25万人未満の市区町村の場合は所属する都道府県が管轄の特定行政庁となります(ただ25万人未満でも特定行政庁とされる市もあります)。 建築設備定期検査の報告はその建物の所在地の管轄する特定行政庁に提出します。 |
建築設備定期検査の検査項目

対象となる設備の項目は次の4点です。
・給排水設備
・換気設備
・非常照明装置
・排煙設備
それぞれ解説します。
給排水設備
給排水設備は、水道管から建築物に水を供給する給水設備と、使用した水を下水道に排出する排水設備の総称です。
給排水設備の検査内容についてまとめました。
設備 | 検査内容 |
給水設備 | ・運転は正常か・腐食や漏れている箇所はないか・汚水槽・排水管等の設置場所に問題はないか |
排水設備 | ・運転は正常か・腐食や漏れている箇所はないか |
各設備の運転に問題がないかをチェックするだけでなく、それぞれの設置場所が適正かどうかも細かく調査します。
もし設備の異常を見逃してしまえば、建物を利用する人が汚染された水を口にしてしまうことになりかねません。
建物を利用する人の生活に欠かせない水を安全で清潔に保つために、給排水設備の調査は重要です。
換気設備
換気設備とは、室内の空気を入れ換えるための設備で、原則としてすべての建物に設置しなければなりません。
屋外からの新鮮な空気を室内に取り入れる給気設備と、室内の空気を外に排出する排気設備の2種類があります。
換気設備の調査では、2つの調査が必要です。
設備 | 検査場所 | 検査内容 |
給気設備 | ・無窓居室・火気使用室・居室 | ・給気口の場所に問題はないか・部屋の広さに対して十分な換気能力があるか・給気口の場所に問題はないか・ダクトの詰まり、フィルターに不具合はないか・衛生状態は良好か |
排気設備 | ・防火ダンパー | ・換気扇や換気フードなどの運転は正常化か・風道の材質に問題はないか・換気量の測定(CO2濃度測定で代替可) |
建物内では、粉じんや有毒ガス、臭気などが発生する場合がありますが、換気によって汚染空気の濃度を下げられます。
調査をおこなわなければ、臭気で不快な思いをするだけでなく、一酸化炭素などで深刻な事態に発展するケースもあります。
建物を利用する人の命と快適な暮らしを守るためにも、換気設備の点検は欠かせません。
非常照明装置
非常照明装置は、災害による停電時に建物内の人が安全に避難できるよう、室内や通路を照らす照明器具です。
延べ床面積1,000平米以上、または3階建て以上で、延べ床面積が500平米を超える建物に設置されており、その種類と検査内容は次のとおりです。
設備 | 種類 | 検査内容 |
非常照明装置 | ・蓄電池(電池内蔵型/電源別置型/発電機併設型)・器具(露出型/下面開放型/簡易密閉型)・光源(直管蛍光ランプ/コンパクト蛍光ランプ/LED)・点灯形態(専用型/併用形/組込形) | ・各装置の場所に問題はないか・停電時に正常に作動するか・明るさは十分確保できているか・装置の周りに障害となる物はないか・配線状況は正しいか・充電状況に問題はないか |
非常用照明装置には、さまざまな種類があります。
この検査では、建築物に備わっている多くの装置の作動状況や設置状況、照度の確認が必要です。
万が一の際に建物内にいる人が安全に避難できるためにも、非常照明装置の検査は欠かせません。
排煙設備
排煙設備は、火災などが発生した際に煙を屋外に排出するための設備であり、特殊建築物でなくても3階以上で延べ床面積が500平米以上の建築物には、設置が義務付けられています。
また、排煙設備は自然に煙を屋外に排出させる自然排煙設備と、機械の力で強制的に煙を屋外に排出させる機械排煙設備の2つがあります。
検査項目は以下のとおりです。
設備 | 検査内容 |
自然排煙設備(外壁に面している窓) | ・開閉に問題はないか・設置場所に問題はないか・さびや腐食がないか・周囲に開閉を妨げる障害物がないか |
機械排煙設備(ダクト・排煙機) | ・場所や設備に問題はないか・排煙口はスムーズに開閉するか・正常に運転できるか・排気風量に異常はないか |
排煙設備の調査は、火災の際に一酸化炭素中毒から建物内の避難者を守ることにつながります。
建築設備定期検査の概要

建築設備定期検査を3つの観点から解説します。
・建築設備定期検査の周期
・建築設備定期検査が可能な資格者
・建築設備定期検査を怠った場合の罰則
それぞれ詳しくみていきましょう。
建築設備定期検査の周期
検査をおこなう周期は特定行政庁によって異なりますが、原則1年に1回です。
新築・改築後の場合は2年以内で、それ以降は毎年おこなわなければなりません。
建築設備定期検査が可能な資格者
建築設備定期検査は、下記いずれかの資格をもたないと実施できません。
・一級建築士
・二級建築士
・建築設備検査員
専門資格が必要なため、資格者を有する専門の調査会社に依頼しましょう。
建築設備定期検査を怠った場合の罰則
定期検査は国で定められているルールであるため、対象となる建物を所有・管理している場合には、必ずおこなわなければなりません。
報告を怠った場合には建築基準法第101条により、100万円以下の罰金が科せられます。
また、調査をおこなわず、報告書だけ作成した場合や破損や不具合を発見したにもかかわらず、問題なしと報告書に記載した場合も、虚偽の報告をおこなったことになり同じペナルティが課せられます。
建築設備定期検査の費用相場

建築設備定期検査の費用相場を紹介します。
規模や調査の内容などにより費用は変わるため、あくまでも参考例としてご覧ください。
なお、下記料金のほかに、行政への届出手数料や出張費が別途かかります。
建物の用途 | |||
延べ床面積 | 共同住宅 | 事務所・病院・福祉施設 | ホテル・旅館・店舗等 |
~500平米 | 30,000円(税別) | 40,000円(税別) | 50,000円(税別) |
~1,000平米 | 40,000円(税別) | 50,000円(税別) | 60,000円(税別) |
~2,000平米 | 45,000円(税別) | 60,000円(税別) | 70,000円(税別) |
~3,000平米 | 50,000円(税別) | 80,000円(税別) | 90,000円(税別) |
~5,000平米 | 60,000円(税別) | 100,000円(税別) | 120,000円(税別) |
5,000平米~ | 別途相談 |
参考までにテックビルケアの建物タイプ別の料金体系をご紹介します。
建築設備定期検査を実施する流れ
建築設備定期検査を実際におこなう流れは以下のとおりです。
1.検査会社を決める
2.検査会社と打合せをする
3.検査を実施する
4.報告書を作成・提出する
5.「建築設備定期検査報告済証」が発行される
順番にみていきましょう。
検査会社を決める
建築設備定期検査の時期が近づくと、管轄の特定行政庁から検査通知のハガキが届きます。
地域によっては通知書が届かない場合もあるため、検査の時期がいつかは必ず把握しておきましょう。
調査を依頼する会社が決まっていない場合には依頼する会社を決める必要があります。
安全を確保するための大切な検査であるため、経験と実績のある会社に依頼することがおすすめです。
検査会社と打合せをする
依頼する会社が決まったら、打合せで日時などを決定しましょう。
初回の検査の場合、建築物と管理者・所有者の情報などを報告書に記載しなければならないため、次の書類が必要です。
・確認済証・検査済証・建築平面図・設備図面(非常照明・換気設備・給排水設備・機械排煙設備)・面積記載図 |
2回目以降の検査の際は、用意する書類は以下の2点だけです。
・前回の報告書
・建築平面図
ただし、前回の報告書の提出後に設備に異常があった時には、設備図面も必要です。
不明な点は、依頼する点検会社に相談しましょう。
検査を実施する
書類の提出が完了したら、検査日まで対応することはありません。
検査はすべて検査会社がおこなうため、当日常に立ち会う必要はありませんが、質問や問い合わせがあった際に連絡がつくようにしておきましょう。
報告書を作成・提出する
検査が終了したら、後日検査会社が報告書を作成します。
報告書が完成後送られてくるので、内容を確認して問題なければ押印して検査会社に送りましょう。
「建築設備定期検査報告済証」が発行される
報告書の提出が完了すると、2〜3カ月後に「建築設備定期検査報告済証」が発行されます。
建築物の入り口付近など、利用者の目に触れやすい場所に掲示することで、建物の安全性を伝えることが可能です。
建築設備定期検査に関するよくある質問
建築設備定期検査に関するよくある質問をまとめました。
・12条点検とは何ですか?
・建築設備定期検査は3年に1回ですか?
・建築設備定期検査の初回検査が免除されることがあるのですか?
順にみていきましょう。
12条点検とは何ですか?
12条点検とは、建築基準法第12条に基づいて、不特定多数の人が利用する特定建築物とその設備の安全性を維持するための点検・報告制度です。
12条点検には「特定建築物定期調査」「建築設備定期検査」「防火設備定期検査」「昇降機等定期検査」の4種類があり、それぞれ検査の対象や報告の周期などが異なります。
建築設備定期検査は3年に1回ですか?
点検の周期は現行の規定に基づき、建築物自体の検査は3年ごと、建築設備・防火設備・昇降機は1年以内ごとにおこないます。
建物が完成し検査済証の交付後最初におこなう点検は、公布日から起算して、建築物であれば6年以内(その後は3年に1回)、設備等は2年以内(その後は毎年)にそれぞれ実施する必要があります。
建築設備定期検査の初回検査が免除されることがあるのですか?
建築設備定期検査の初回検査が免除されるケースは、建物が新築で検査済証の交付を受けている場合です。
建物が竣工した時点で検査が完了しているため、1年に1度の定期報告が義務付けられている地域でも初回は必要ありません。
ただ、初回が免除されただけなので、検査証の交付から2年が経過するまでに1回の定期検査が必要となります。
建築設備定期検査のご相談は経験と実績のテックビルケアへ

建築設備定期検査を含む12条点検の対象となる建物や定期点検の周期などは、地域によってもルールが異なり非常に分かりづらい点が多いです。
管理している、あるいは所有している建物が点検の対象となるのか、点検の周期がどうなっていて報告を具体的にどうしたらいいのか、今一つ分からずに不安に感じている方も少なくないでしょう。
そういった場合には、建築防災のプロであり、あらゆる建物に対応できる技術と知識を豊富にあわせもつテックビルケアにぜひ一度ご相談ください。