住宅の劣化による不具合や欠陥がないかなどを調べるホームインスペクションは、売買契約の締結前が実施のベストタイミングです。
ただ、さまざまな理由で契約前にできないケースがあります。
この記事では、以下の3点について解説します。
・ホームインスペクションを契約前に実施するべき理由
・ホームインスペクションを契約前にきないケースと対処法
・ホームインスペクションを契約後に実施する場合のタイミングや注意点
ホームインスペクションが契約前にできず、悩んでいる方はぜひ最後までご覧ください。
ホームインスペクションを契約前に実施するべき理由
ホームインスペクションは、住宅の状態に問題がないかを診断する重要な調査であり、実施する時期は住宅の売買契約を交わす前がよいとされています。
理由は2つあります。
・結果次第で購入を取り消すことができる
・欠陥や不備があった場合に交渉がしやすい
それぞれ詳しくみていきましょう。
結果次第で購入を取り消すことができる
契約前にホームインスペクションをおこなうべき最大の理由は、診断結果によって大きな欠陥や施工ミス(瑕疵)が発見されたときに購入を取り消すことができるからです。
契約後にホームインスペクションをおこない、何か問題が発覚した場合に補修を求めることはできても、契約の解除は原則できません。
たとえば、施工ミスの場合でも簡単に補修ができるものもあれば、補修が難しいものもあります。
どちらにしても、売主側が対応してくれれば問題ないのですが、難しいものに関しては、なかなか対応してくれないケースもあります。
契約前であれば、購入自体を辞める選択肢をもって補修の依頼などができるため、圧倒的に買主側が有利です。
欠陥や不備があった場合に交渉がしやすい
ホームインスペクションにより欠陥や不備が見つかった場合に、売主側に対して補修や購入金額に関する交渉がしやすいという面があります。
なぜなら、契約前であれば結果次第では購入を取りやめられるという強みがあるからです。
契約後は、売買契約や引き渡し時期などの取引条件は、契約内容に縛られてしまいます。
施工ミスの場合には、ミスを認めて修理してくれる場合はあるものの、その他のことに関しては売主側が強気になることはよくある話です。
契約前であれば、購入を断られては困るという考えもあるため、それほど強気な態度でない場合でも、契約したとたんに対応に関して一変するケースも少なくありません。
ホームインスペクションが契約前にできないケース

ではなぜ、契約前にホームインスペクションができないのでしょうか。
ホームインスペクションが契約前にできないのは、以下のようなケースです。
・スケジュールの問題
・売主や不動産会社が許可しない
・第三者検査を実施済みのため必要ないといわれた
順にみていきましょう。
スケジュールの問題
不動産売買は、申込から契約までの期間は一般的に約2週間とされています。
ホームインスペクションは、基本的にはこの期間内に実施する必要があります。
ただ、調査を依頼してホームインスペクションを実施するまで1週間程度要するケースもあり、依頼のタイミングによっては契約までに調査が間に合わない可能性があるため、契約前の申し込みの段階から、調査することを念頭に置いて住宅選びをする必要があります。
売主や不動産会社が許可しない
契約前にホームインスペクションができない理由の一つに、売主や不動産会社が調査を拒否することがあげられます。
売主側が拒否すれば、当然ホームインスペクションはできません。
宅建業法の改正により、ホームインスペクションに関する認知度や理解度が高まってきたとはいえ、いまだにホームインスペクションに関して肯定的でない人も少なからず存在します。
売主や不動産会社が許可しない理由は3つ考えられます。
・不具合が見つかることを嫌がる・結果次第で購入してもらえない可能性があるから・問題があった場合に、資産価値も下がるし、対応も面倒だと考えている |
ホームインスペクションに理解を示している売主や不動産会社も多数いる中で、やはり一定数このような考えをもった人たちがいることも事実です。
第三者検査を実施済みのため必要ないといわれた
新築工事において「第三者検査を実施しているため調査の必要がない」といわれるケースがあります。
確かに新築住宅の場合、第三者機関による「建築確認申請」や「住宅性能表示制度」などの検査が入ります。
しかし、これらの検査は図面どおりに施工できているかを確認するために実施されるもので、住宅の欠陥や不具合の改善を目的としておこなわれるものではありません。
一つの購入する際の目安にはなりますが、ホームインスペクションによる本当の安心を得ることにはならないため注意しましょう。
ホームインスペクションが契約前にできないときの対処法

次に、ホームインスペクションが契約前にできないときの対処法について解説します。
対処法は次の4点です。
・根気強く交渉する
・検討している住宅購入を諦める
・不動産仲介業者を変える
・ホームインスペクションを契約後に実施する
それぞれ説明します。
根気強く交渉する
ホームインスペクションができない場合でも、根気強く交渉することが重要です。
「長く住み続ける家の状態を知って安心したい」ということ、また「金額交渉の際などの揚げ足取りや駆け引きのために希望するのではない」など、あなたの正直な思いを不動産会社の担当者に伝えましょう。
根気強く誠心誠意伝えることによって、善処してもらえるケースも多いはずです。
検討している住宅購入を諦める
調査に関して無理の一点張りで受け入れてもらえない場合には、検討している物件を諦めて、別の物件に変えることも考えてみましょう。
頑なに拒否するときには、何か大きな不具合が隠れている、あるいは隠している可能性もあるため、後になって大きな後悔をすることになるかもしれません。
状況によっては、考え方を切り替えてみることも大切です。
不動産仲介業者を変える
根気強く交渉したにもかかわらず納得してもらえないときには、不動産会社を変えることも選択肢の一つです。
中古住宅や建売住宅の場合、その物件を取り扱っているのはその不動産会社だけではありません。
不動産会社の担当者が単に拒否しているだけで、売主自体はそのことを知らなかった、あるいは調査自体を拒んでおらず、調査ができたというケースもあるため、諦めずに行動してみましょう。
ホームインスペクションを契約後に実施する
対処法を試みたにもかかわらず、どうしても契約前にできないときには、契約後に調査することを検討しましょう。
前述したように、契約後にホームインスペクションを実施した場合には、その結果次第で購入を取りやめることはできません。
しかしながら、契約後でも住宅の状態を把握できることでその後のリフォームの際に役立ったり、欠陥が見つかった場合に、契約後でも補修などを売主側に請求できるケースもあるなど、メリットも少なくありません。
契約後でも実施する具体的なメリットをみていきましょう。
契約後でもホームインスペクションを実施するメリット

契約後でもホームインスペクションを実施するメリットは3つあります。
・欠陥や問題を早期に発見できるためその後にスムーズな対応ができる
・住宅の状態が把握できるためリフォームの際に役立つ
・売主側へ補修や損害賠償を請求できる場合がある
順に詳しく解説します。
欠陥や不具合を早期に発見できるためその後にスムーズな対応ができる
ホームインスペクションの結果、購入をやめることは困難であるとはいっても、家のコンディションを把握しておくことは大切なことです。
人の体も何か病気が見つかった場合に、早期に治療すれば事なきを得ることが多いのと同じように、家も何か不具合があった場合には、可能な限り早めに発見して補修することがおすすめです。
ダメージが少ないうちに対処することで被害を最小限に抑えられ、結果的に修繕費を含むメンテナンス費用を軽減させることにつながるでしょう。
住宅の状態が把握できるためリフォームの際に役立つ
中古住宅の場合、購入後すぐにリフォームする人も多く、契約後でも調査を依頼することで、見つかった問題部分をリフォーム時に修繕できます。
当初考えていたリフォーム予算より補修の項目が増える可能性があるため費用がかかりますが、調査をせずに後々欠陥や問題が発覚して、ダメージが大きくなってから修繕するよりも割安になる場合も多いです。
特に中古住宅の場合には、契約後でも調査を実施することに大きなメリットがあるでしょう。
売主側へ補修や損害賠償を請求できる場合がある
売主と交わした契約で保証や契約不適合責任がついているケースも多いため、発覚した施工不良や劣化した部分の補修を売主側へ請求できる場合があります。
また、被害の状況などによっては損害賠償を請求できることもあるでしょう。
責任の所在が曖昧にならないうちに、早めに調査することが大切です。
契約後にホームインスペクションを実施するタイミング
契約後に実施するタイミングは次の3点です。
・売買契約後・引き渡し前までに実施する
・引き渡し後・引っ越し前に実施する
・引っ越し後に実施する
それぞれ詳しくみていきましょう。
売買契約後・引き渡し前までに実施する
契約後でおこなう場合に一番いい時期は引き渡し前です。
一般的には、引き渡しと同日に残金の決済がおこなわれるため、まだ残金を支払っていない状況であれば、何かしらの問題が発覚した場合に売主と交渉がしやすいからです。
ただし、所有権移転の前であるため、ホームインスペクションをする際には、売主の許可や不動産会社の協力が必要なので注意しましょう。
引き渡し後・引っ越し前に実施する
引き渡し後(金額の支払いを終えて所有権が買主側に移った後)且つ、引っ越し前の時期に実施するケースです。
このケースでは、保証や契約不適合責任の期間内に調査をおこないます。
このタイミングでおこないたい場合には、引き渡し日から引っ越し日まで少なくとも1週間以上の間隔を空けておきましょう。
引っ越し後に実施する
引き渡し前や引き渡し後の入居前にどうしてもできないときには、引っ越し後におこなうことになります。
引っ越し前がおすすめですが、やむを得ない場合でもホームインスペクション自体はおこなった方がいいです。
ただし、引っ越した後であるため、家財家具などで十分にチェックができない箇所があることは把握しておきましょう。
売買契約後にホームインスペクションを実施する際の注意点
売買契約後におこなう際の注意点は3つあります。
・引っ越し前に依頼する
・売主の契約不適合責任を売買契約に入れてもらう
・売買契約時に保証期間と内容を確認しておく
それぞれ詳しくみていきましょう。
引っ越し前に依頼する
前述しましたが、引っ越した後で調査をおこなうときには、家財道具などでチェックできない箇所が出てくるため、できれば引っ越し前で家財道具などを搬入する前に調査をおこなうことが望ましいです。
そのためには、契約する時点で、引き渡し日と入居日のスケジュールをよく考えておくことが重要です。
引き渡しが済んでもすぐに入居せず、調査を実施するための余裕をもった予定を立てましょう。
引っ越し業者の手配も絡んできますので、スケジュールを整理しながら、事前にゆとりをもって行動することが大切です。
売主の契約不適合責任を売買契約に入れてもらう
中古住宅の売買の際に、売主が不動産会社でない場合は、売主の契約不適合責任が免除できる場合があります。
住宅購入後にホームインスペクションを実施する場合、大きな欠陥や問題が発覚したら、売主側に補修費を求めたり、損害賠償請求をしたりする可能性があるため、売主の契約不適合責任が免除とならないか確認する必要があります。
一般的には、築年数が20年以上の物件では契約不適合責任が免除になっているケースも多いですが、個々の契約内容によって条件が異なります。
必ず契約前に、売主の契約不適合責任がついているか、ついている場合にはその期間(例えば引き渡し後3カ月など)を不動産会社に聞いて、免除になっているときにはつけてもらうよう交渉しましょう。
売買契約時に保証期間と内容を確認しておく
新築住宅を購入する場合や、売主が不動産仲介業者である中古住宅を購入する際には、売主による保証期間と内容を必ず確認しましょう。
新築の場合、引き渡し後10年間は「構造耐力上の主要な部分と雨水の侵入を防ぐ部分」の保証が義務づけられています。
この点以外に売主が独自に保証しているケースがあるので、その内容もチェックしておく必要があります。
また、中古住宅における契約不適合責任は、売主が不動産会社以外であれば、免除されていなくても引き渡し後3カ月以内となっていることが多いです。
さらに、「設備についての保証は引き渡しから7日間」などのように短期間の場合が多いため、引き渡し直後に水道栓を開栓してチェックすることなどをおすすめします。
いずれにしても、それぞれの保証期間や契約不適合責任の期間をよく把握し、その期間内にホームインスペクションをおこないましょう。
ホームインスペクションは契約前にできなくても大丈夫!

ホームインスペクションは契約前におこなうことがベストであることは前述したとおりですが、契約前にできなくても大丈夫です。
契約前にできない理由はさまざまですが、契約後であってもそれぞれのタイミングでおこなうメリットがあります。
契約前にできなかったからと調査を諦めて後々大きな後悔をするよりも、できる時期に実施し、長く生活していくうえでの大きな安心を手に入れましょう。