火災から居住者の安全を守るために消防設備点検は欠かせません。
しかし点検の内容や対象となる設備、居住者としての協力体制などを詳しく理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。
この記事では、下記の内容を詳しく解説します。
・マンションにおける消防設備点検の重要性
・具体的な点検内容や管理者に求められる義務
・点検を怠った場合の罰則や費用相場、点検当日居住者が不在の場合の対処方法
マンションの消防設備点検に関する知識を深めたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
マンションの消防設備点検とは?

マンションの消防設備点検は、消防法に基づき建物内の消防設備が正常に稼働するかを定期的に確認するための点検です。
万一の火災発生時に、居住者の命や財産を守るために欠かせない重要なものです。
具体的には、非常ベルや消火器、スプリンクラーなどの消火設備が、いざというときに正常に作動するかを確認します。
点検は、消防設備士や消防点検資格者などの有資格者がおこない、消防署に報告しなければなりません。
消防設備点検が必要なマンション
有資格者による点検が必要な建物は以下のとおりです。
1.延べ床面積1,000平方メートル以上の特定防火対象物※12.延べ床面積1,000平方メートル以上の非特定防火対象物※2で、消防長または消防署長が指定するもの3.特定一階段等防火対象物※34.全域放出方式の二酸化炭素消火設備が設置されている防火対象物 |
※1
特定防火対象物とは、不特定多数の人が出入りする建物、もしくは災害時などに避難が困難と予想される施設を指します。
具体的には、デパートやホテル、百貨店、病院、老人ホームなどの社会福祉施設が対象です。
※2
非特定防火対象物とは、特定防火対象物以外の建物のことで、基本的に決まった人しか出入りしない用途の建物です。
学校や工場、共同住宅などが該当します。
※3
特定一階段等防火対象物とは、避難する際に使用できる直通階段が1つしかなく、地階または3階以上に不特定多数の人が利用する特定用途部分がある防火対象物です。
簡単にいえば、「不特定多数の人が集まりやすい飲食店やホテルなどのフロアが地上から離れており、また避難するための階段が1つしかない」建物のことです。
マンションは共同住宅のため、2つ目の条件の延べ床面積1,000平方メートル以上の非特定防火対象物にあたる可能性があります。
延べ床面積1,000平方メートル未満のマンションであれば、自身でも点検ができることになっていますが、建物の安全性を確保するために重要であるため、有資格者による点検を強くおすすめします。
消防設備点検と報告はマンション管理者の義務
「マンションの消防設備点検は必ず実施しなければいけないのか?」という声をよく耳にします。
マンションの消防設備点検は分譲・賃貸にかかわらず、安全を確保するために消防法により課せられた義務です。
ここでのマンションの管理者とは、分譲マンションの場合、一般的には管理組合の理事長、賃貸マンションの場合は建物の所有者もしくは管理会社を指します。
民間の業者や有資格者などに点検を依頼し、その結果を消防長または消防署長に報告しなければなりません。
マンションの消防設備点検の内容と頻度

マンションの消防設備点検の内容や頻度に関するルールをみていきましょう。
具体的には次のとおりです。
・マンションで点検の対象となる設備
・6カ月に1度の機器点検
・1年に1度の総合点検
・マンションの消防設備点検を怠った場合の罰則
順に解説します。
マンションで点検の対象となる設備
消防点検の対象となるのは「消火設備」「警報設備」「避難設備」「消防用水」「消火活動上必要な設備」の5種類があります。
そのうち、マンションに設置されている主な設備は、消火器や消火栓、スプリンクラーなどの「消火設備」、自動火災報知設備や非常ベルなどの「警報設備」、避難はしごや誘導灯などの「避難設備」です。
点検の種類には、回数や内容が異なる「機器点検」と「総合点検」の2種類があるので、それぞれ詳しく説明します。
6カ月に1度の機器点検
機器点検は6カ月に1回以上実施しなければなりません。
消防設備が適正に設置されているか、設備自体の損傷や有効期限切れがないかなどを、外観からの目視や簡単な操作によりチェックします。
マンションの共用部分のチェックと設備によっては室内への立ち入りが必要です。
1年に1度の総合点検
総合点検は1年に1回以上おこなう点検で、実際に、全部もしくは一部の機器を稼働させて総合的に消防設備をチェックします。
実際に火災警報器を鳴らしたり、避難はしごを作動させたりするため、事前にマンション入居者への周知をしたうえで協力を依頼しなければなりません。
それぞれの住戸で点検が必要となる設備は主に以下の3種類です。
・消火器
・自動火災報知設備
・避難はしご
消火器の設置場所の確認や損傷や腐食がないかのチェック、火災報知設備の設置場所や作動確認、避難はしごの腐食や破損がないかの確認、避難経路周辺に障害となるものが置かれていないかなどの点検です。
目安として1住戸あたり10分程度で終了します。
マンションの消防設備点検を怠った場合の罰則
法的に義務付けられている消防設備点検とその報告を怠った場合、その建物の管理者に対し罰則が科せられます。
管理状況 | 建物の管理者 |
建物の管理を誰にも委託していない場合 | 所有者 |
建物の管理を委託している場合 | 受託者(もしくは委託管理者) |
管理義務付きで占有している場合 | 占有者 |
罰則の内容は下記のとおりです。
違反内容 | 罰則 |
消防設備の設置命令に違反した場合 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 (消防法第41条) |
消防設備の点検を報告しなかった、または虚偽の報告をした場合 | 30万円以下の罰金または拘留 (消防法第44条) |
点検自体をおこなっていない場合や、回数がルール通りに実施されていない場合も点検報告義務違反に該当します。
マンションの消防設備点検の費用相場

消防設備点検の費用は、マンションの維持管理費用の一部として入居者から徴収することが一般的です。
ここではマンションの消防設備点検にかかる費用相場を紹介します。
マンションの規模や点検項目、依頼する会社などによって変動するためあくまでも目安として参考にしてください。
延べ床面積 | 費用 |
〜300平方メートル | 1〜2万円 |
300〜500平方メートル | 2〜4万円 |
500〜1,000平方メートル | 3〜6万円 |
1,000〜2,000平方メートル | 4〜8万円 |
2,000〜3,000平方メートル | 5〜10万円 |
3,000〜5,000平方メートル | 8〜18万円 |
5,000〜10,000平方メートル | 15〜30万円 |
10,000〜25,000平方メートル | 20〜50万円 |
25,000平方メートル以上 | 30万円~ |
交通費 | 50~70km | 1万円 |
70~100km | 2万円 |
※金額はいずれも税抜
参考までにテックビルケアの建物タイプ別の料金表は下記のとおりです。
マンションの場合は、3階建て12戸で3万円(税別)となっています。
消防設備点検の流れ
消防設備点検の流れは下記のとおりです。
・点検を依頼する会社を選ぶ
・点検を実施する
・消防長または消防署長への報告
順に解説します。
点検を依頼する会社を選ぶ
まずは、点検を依頼する会社を選びましょう。
点検会社を選ぶ際のポイントは以下の3点です。
・経験が豊富な会社か
・分かりやすい見積もりか
・緊急時の対応に問題はないか
消防設備に対する専門的な資格や知識があることはもちろん、実際の火災事例への対応経験が豊富な会社を選びましょう。
また、見積もりが分かりやすいかどうかも重要です。
例えば見積もりを取る際に、内訳が「費用一式」と記載されている業者ではなく、具体的で分かりやすく明示されている業者を選びましょう。
費用の透明性が増すことで安心感を得られ、概略の予算が立てられます。
さらに、緊急時の対応力も重視しましょう。
火災報知機やスプリンクラーなどの警報装置が故障した場合や、消防署からの立ち入り検査時には迅速な対応が求められます。
これらの点を考慮して適切な消防設備点検業者を選定することで、マンションの安全性を確保でき、居住者の安心につながるでしょう。
点検を実施する
依頼する会社が決まり正式に依頼をしたら、決められた日時に、消防設備士もしくは消防設備点検資格者が実際に点検をおこないます。
この際、関係者は立ち合いが必要となる場合があるため、事前に確認しておきましょう。
消防長または消防署長への報告
消防設備の点検が終わったら、消防長または消防署長へ点検結果の報告をします。
マンションなどの集合住宅の場合は、3年に1回報告が必要です。
消防設備の点検とあわせて、消防署への点検結果の報告をおこなってくれる業者に依頼すると安心です。
マンションの消防設備点検時の居住者の協力体制

マンションの消防設備点検をおこなう場合、各住戸内に入り点検をおこなうため、それぞれの居住者の協力が必要です。
ここでは、消防設備点検における居住者の協力体制を解説します。
具体的には、次の4点です。
・居住者が立ち会うのは6カ月に1回
・マンションの居住者に点検・報告の義務はない
・マンション室内の点検を拒否したらどうなるか
・消防設備点検の当日に不在で立ち会えない場合の対処法
それぞれ説明します。
居住者が立ち会うのは6カ月に1回
マンションの消防設備点検は、6カ月に1回以上の機器点検と1年に1回以上の総合点検が必要です。
マンションの共有部分だけでなく、各住戸内にある消火器や自動警報装置、またベランダに避難はしごが設置・格納されている場合などは各部屋内で点検をしなければなりません。
したがって、6カ月に1回は消防設備点検に立ち会う必要があります。
マンションの居住者に点検・報告の義務はない
所有者や管理を任されているマンションの「管理者」には消防法により、マンションの消防設備点検の義務がありますが、マンションの居住者に点検の義務はあるのでしょうか。
結論、居住者に点検や報告の義務はないため、室内の消防設備点検を仮に拒否しても罰則はありません。
マンション室内の点検を拒否したらどうなる?
マンションの居住者個人が、他人を部屋内に入れたくないなどの理由から、点検当日の不在を理由に断ったり、在宅していても居留守を使ったりするケースは少なくありません。
しかし、マンションは1つの建物に複数の世帯が暮らす共同住宅であるため、安全な暮らしを保つためには、点検を断るのではなく立会い協力してもらうことが望まれます。
国土交通省は、マンション標準管理規約により、「マンションの管理者は、管理上必要な場合部屋へ立ち入って必要な調査をおこなうことができ、区分所有者はこれを拒否できない」と定めています。
つまり法的な罰則はなくとも、消防設備点検を拒否することは、マンションの管理規約違反に該当します。
また、点検を拒否することで、大きなリスクを負うことにもつながります。
点検をおこなわなかったために、火災報知器などが正常に稼働しなかったことが原因で火災を引き起こしたとします。
その結果、他の住戸の居住者に被害を及ぼした場合、賠償責任を問われる場合もあるのです。
室内の点検は10分ほどで完了するので、必ず点検に応じるようにしましょう。
消防設備点検の当日に不在で立ち会えない場合の対処法
点検に協力したくても一人暮らしや共働きなどで休暇が取りにくく、消防設備点検当日に立ち会えない場合はどうしたらよいのでしょうか。
消防設備点検は、予告なくいきなり実施されるわけではなく、居住者に前もって日程が告知されます。
そう頻繁にあることではないため、できれば予定をやりくりして立ち会うようにしましょう。
マンションによっては、当日どうしても不在の場合は後日点検を実施するケースもあります。
また、日程の変更はできなくても時間帯の希望を出せるなど柔軟に対応してもらえる場合が多いです。
皆が安心して生活を送るためにも、消防設備点検に協力しましょう。
安心・安全ともしもに備えるために消防設備点検は必要!
マンションの消防設備点検は、居住者の命と財産を守るために重要です。
適切に実施することで、火災時の被害を最小限に抑え、安心して暮らせる環境を維持できます。
点検は法律で義務化されており、これを怠れば罰則を受けるだけでなく、住民の安全を脅かすことにもなりかねません。
管理者と居住者が協力し合い、定期的な点検と確実な報告の実施が、災害に強いマンションづくりの第一歩です。
適切な消防設備点検をおこない、安心・安全を手に入れ、もしものときに備えましょう。